2014年06月12日

スティーブ・ジョブズが愛した禅僧、乙川弘文評伝D

京都大学大学院時代、若き日の苦悩
「Kotoba」(集英社)2013年春号より転載/文・柳田由紀子


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photo by Nicolas Schossleitner

若い頃から精神世界にのめり込んだジョブズが、
生涯でもっとも長い間向き合ったのが「禅」だった。
とりわけ、日本人の禅僧、乙川(旧姓・知野)弘文(こうぶん)との
30年におよぶ交流がジョブズに与えた影響は絶大だった。
その一端は、コミック
『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』にも描かれている。
知られざる禅僧の人物像に迫る。


 弘文の死後、乙川家には京都大学大学院時代に書かれた日記や学習帳が残された。そのうちの一冊、『鳳来孫日録 京洛』と題された弘文の日記は、一九六0年九月一三日に始まる。
「今日は故衛藤即応(えとうそくおう)師の月忌である。来月のこの日で御遷化(ごせんげ)より満二ヶ年。即ち三回忌である。御遷化当時を顧れば、あの霧のたちこめた朝の空気が実感となって迫って来る。御通夜の晩の事、お邸からの帰途、星空に向って声をのんで涙を流した事」

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2014年06月05日

スティーブ・ジョブズが愛した禅僧、乙川弘文評伝C

弘文が生まれ育った新潟、定光寺へ
「Kotoba」(集英社)2012年冬号より転載/文・柳田由紀子

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photo by Nicolas Schossleitner

若い頃から精神世界にのめり込んだジョブズが、
生涯でもっとも長い間向き合ったのが「禅」だった。
とりわけ、日本人の禅僧、乙川(旧姓・知野)弘文(こうぶん)との
30年におよぶ交流がジョブズに与えた影響は絶大だった。
その一端は、コミック
『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』にも描かれている。
知られざる禅僧の人物像に迫る。


 新潟行き鈍行列車の車窓には、次々と稲田が映っては流れていった。東京から長岡まで新幹線で1時間半。長岡から信越本線の鈍行に乗り換えて新潟県の加茂駅へ。およそ30分で着いた加茂は眠ったような街だった。かつて賑やかだったという駅前は、典型的な地方のシャッター通りに変わっていた。10分ほど閑散とした商店街を歩いたところで、地元の人に目的地の方角を確認する。
「すぐ横の加茂川土手を猿毛岳に向かって進めば、5、6分で見えてきますよ。大きなお寺ですから。この辺では、いちばん檀家が多いんじゃないかしら」
 その人に教えられた通り加茂川沿いを歩いた私は、対岸に目的の寺を見つけて腰を抜かしそうになった。威風堂々とした山門、その奥に垣間見えるゆったりとした屋根瓦の本堂、鬱蒼と茂る樹木ーーまるで修学旅行で訪ねるような立派な寺ではないか。
 乙川弘文が生まれ育った寺、新潟県加茂市神明町(しんめい)の曹洞宗、定光寺(じょうこうじ)である。

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2014年06月04日

スティーブ・ジョブズが愛した禅僧、乙川弘文評伝B

ロスガトスの慈光寺にて、弘文の十一回忌・追悼供養を営む
「Kotoba」(集英社)2012年秋号より転載/文・柳田由紀子

Kobun_Chino_Otagowa.jpg
photo by Nicolas Schossleitner

若い頃から精神世界にのめり込んだジョブズが、
生涯でもっとも長い間向き合ったのが「禅」だった。
とりわけ、日本人の禅僧、乙川(旧姓・知野)弘文(こうぶん)との
30年におよぶ交流がジョブズに与えた影響は絶大だった。
その一端は、コミック
『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』にも描かれている。
知られざる禅僧の人物像に迫る。


 チリン、チリン、チリンーー僧侶を先頭に、振鈴に導かれた100名余りの人々が縦列を組んで山道を静々と下りていく。目指すは小川のほとりに立つ二基の墓。かつては日本の各地で見られた法要の様だが、この一行、日本人の目にはいささか不思議に映る。禅衣を纏った20名ほどの僧侶はじめ全員が欧米人なのだ。
 7月29日、カリフォルニア州中部、ロスガトスの人里離れた「慈光寺」で、故乙川弘文老師(享年64歳)と、二女摩耶(まや/享年5歳)の十一回忌、追善供養が営まれた。2002年7月26日、弘文はドイツ人の門弟を訪ねたスイスで、池で溺れかけた娘を救おうとしてともに溺死した。あれから10年。1983年に弘文が開山した慈光寺にはこの日、全米はもとよりヨーロッパからも弘文に師事した人々が駆けつけた。

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2014年06月03日

スティーブ・ジョブズが愛した禅僧、乙川弘文評伝A

弘文がカリフォルニアに創った「慈光寺」を訪ねる
「Kotoba」(集英社)2012年夏号より転載/文・柳田由紀子

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photograph/ Nicolas Schossleitner
若い頃から精神世界にのめり込んだジョブズが、
生涯でもっとも長い間向き合ったのが「禅」だった。
とりわけ、日本人の禅僧、乙川(旧姓・知野)弘文(こうぶん)との
30年におよぶ交流がジョブズに与えた影響は絶大だった。
その一端は、コミック
『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』にも描かれている。
知られざる禅僧の人物像に迫る。



 雲ーー乙川弘文を語る時、人はしばしば“雲”という言葉を使う。スティーブ・ジョブズが師事した弘文とは何者だったのか? それを少しでも知りたくて、私は彼が開いた「慈光寺」を訪ねた。弘文は、生涯にいくつもの禅堂を草創したが、慈光寺は中でも最も心血を注いだ寺といわれる。
 1970年、曹洞宗の開教師(現・国際布教師)として再渡米した弘文は、当初、ジョブズも通ったカリフォルニア州ロスアルトス市の「俳句禅堂」で布教を続けた。しかし俳句禅堂が、信徒の自宅ガレージを改造した小さな禅堂だったため、79年にマウンテンビュー市に移動し、名称も「観音堂」と改めた。その一方、弘文と弟子たちは、存分に摂心(せっしん/一定の期間ひたすら坐禅すること)のできる自然を求めて、都市型の観音堂とは性格の違う禅堂を創った。
 それが慈光寺(83年〜)である。続きを読む
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2014年05月31日

スティーブ・ジョブズが愛した禅僧、乙川弘文評伝@

世界を変えた男は、その訃報にさめざめと泣いた。
「Kotoba」(集英社)2012年春号より転載/文・柳田由紀子

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photo/ Nicolas Schossleitner

若い頃から精神世界にのめり込んだジョブズが、
生涯でもっとも長い間向き合ったのが「禅」だった。
とりわけ、日本人の禅僧、乙川(旧姓・知野)弘文(こうぶん)との
30年におよぶ交流がジョブズに与えた影響は絶大だった。
その一端は、コミック
『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』にも描かれている。
知られざる禅僧の人物像に迫る。

「受話器の向こうで、スティーブ・ジョブズはさめざめと泣いていました。5分くらいでしたか。とても感傷的ですすり泣く声だけが聞こえてきました。その間に時折、『なぜ?』『どうして?』と。でも、スティーブは答えを求めていたんじゃない。ただ話す相手が欲しいのだと私にはわかりました。あれは、”彼”が亡くなった直後の2002年夏。スティーブ自身が癌と診断される一年ほど前のことでした」
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2013年12月22日

スティーブ・ジョブズも訪ねた、乙川弘文の禅寺「鳳光寺」(タオス)。

 先月発表された新刊、『The Bite in the Apple−−A Memoir of My Life with Steve Jobs』を読了しました。この本は、スティーブ・ジョブズの最初の恋人で、娘リサの母親でもあるクリスアン・ブレナンが書いた自伝です。


 実は、私は、ジョブズと日本人の禅僧、このふたりが主人公のイラストブック『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』(集英社インターナショナル/アメリカの出版社=老舗のForbs社)の翻訳者なんです。


 この本に出てくる禅僧、つまりスティーブ・ジョブズが師事した僧侶とは、乙川(旧姓・知野)弘文(1938年〜2002年)。私は、2年前から弘文について調べていて、実際に今秋まで「Kotoba」(集英社)で弘文伝を連載していました。そんな私が『The Bite in the Apple』を読んだ感想は、「ここまでジョブズと日本、あるいは、ジョブズと弘文の関係を記した著作は初めて」ということ。



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posted by 柳田由紀子 at 05:34| Comment(0) | スティーブ・ジョブズ と乙川弘文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする