「何と言つても、温泉は別府だ。別府に比べたら、伊豆の熱海や伊東などは殆ど言ふに足りない」ーー作家、田山花袋は、名著『温泉めぐり』(1926年)にこう書いた。温泉王国ニッポンで、ニッポン一の誉れ高い別府温泉郷、その実力のほどーー。
4日目夜:明礬温泉にて
窓の外には、別府市街と別府湾の夜景が広がっていた。もくもくもくもく、あいかわらずあちらこちらから湯けむりがたなびいている。目をこらすと、ちょうど真ん中辺りに別府駅。そうだ、私はあそこからこの旅を始めたのだ。たったの4泊5日だというのになんと濃密な旅だったろうーー。
私は、その夜、別府温泉郷の中でも最も高所、標高400メートルの明礬温泉にいた。
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