月刊「ENGINE」(新潮社)2010年5月号より転載/文・柳田由紀子
モツを食べる女が増えている。ある有名焼肉店のオーナーは証言する。
「モツをがっつり食べる肉食女子が目立つ。昔は、女性はモツを敬遠していたのにーー」
子どもの頃、近所に食肉処理場に出入りしている人がいて、その人が時々お裾分けしてくれるモツの煮込みが抜群だった。特にホルモン(腸。別名シロモツ)が最高で、新鮮さ故かグルッと丸まり歯ごたえも良し。以来、私は”クルッ”を求めてホルモンを食べ続けている。
「ホルモンヌ」(ホルモン好き女)の名称は、佐藤和歌子氏の名著『悶々ホルモン』(新潮社)で定着したが、私は元祖ホルモンヌと言えなくもない。牛、豚、鳥、ホルモンならなんでも大好きだ。

「やっぱりモツはホルモンでしょう!」
そう言うと、初めてお逢いした和歌子さんは、「かもしれぬ」とつぶやいてフンフンと頷いた。
東京下町、京成立石駅前のモツ焼屋「ミツワ商店」。我々の手には、しっかりと豚のシロタレが握られている。
このシロは、今日、芝浦市場からやって来た。生のシロはミツワで湯がかれ、よくよく掃除されたため油が落ち、身が適度に薄く、臭みもない。全国広しと言えど、ここのシロが一番と思うがいかがでしょう? 私が問うと、和歌子さんは、再びフンフンと頷いてシロタレを食べ続けた。
華と腸
焼き肉の華もやはり腸。
牛のホルモンなら「浅草幸福」である。豚より厚く、ミノ(牛の胃)より薄いこの店のホルモンは、シャキシャキとまるで極上の平貝のよう。
「臭みの元は油。腸の中を一本ずつ丁寧に掃除する」
とアボジ。
「大腸のどの部分かって? 企業秘密、教えられないさ」

さて、最後に焼鳥屋を。
鳥モツといえば、普通はレバ(肝臓)、ハツ(心臓)、砂肝(胃)、軟骨あたりに限られる。鳥の内臓は、お尻にバキューム機を入れて取るので、各部位を仕分けできないのだ。
ところが、白金の「酉玉」では、胸腺や腎臓など多種多様な部位を食べることができる。「昔のように、鳥を手でばらしている卸問屋から仕入れている」(ご主人)からだ。酉玉には、毎日300羽分の鳥モツが届く。

ーーと、ここまで書いてこのページの担当者、N編集者から電話。腸閉塞だと言う。腸=ホルモン、N=ホルモン閉塞。嗚呼、悶々ホルモン。お大事に!
*ミツワ商店:東京都葛飾区立石1-18-5phone: 03-3697-7276/シロ1皿2本で180円*浅草幸福:東京都台東区西浅草3-27-25phone: 03-3843-2358/牛ホルモン1皿750円*酉玉:東京都港区白金6-22-29phone: 03-5795-2950/鳥モツ焼き1本210円〜