2013年12月04日

INTERVIEW:シンクロナイズド・スイミング・コーチ、井村雅代さん、『教える力』を語る

月刊「エンジン」(新潮社)2013年8月号より転載/文・柳田由紀子


井村雅代

 シンクロコーチの井村雅代さんを、「感情的でおっかない大阪のオバハン」と認識している人は少なくないと思う。だけど、井村さんの新刊『教える力』を読むと、この人が並外れた客観性と慈愛の持ち主だということがよくわかる。 
「五輪は参加することに意義なんてないですよ。あれは、クーベルタンが言っただけのことや(笑)。五輪は戦う場所。戦争は負けて死んだら終いだけれど、スポーツは負けた相手をレスペクトし、さらにリベンジすることもできる。それがスポーツの崇高さ」
 井村さんは、お腹から声を出して溌剌と話した。

 客観的な井村さんは、シンプルな思考回路を好む。その明快さは時に吹き出してしまうほどだ。
 以下、本書からの引用。
「練習は、最悪のとき、シンドイときにするもんや。そして試合は、元気なときにするんや」
「(平たい顔の日本人は笑顔で欧米人に負ける。だったら)笑わないシンクロの芸術性を極めよう」
「過去にやった練習時間とか、メニューとか、そんなのは終わったらもう、古くて使えません。だから全部捨ててしまう」







 この本の副題は、「私はなぜ中国チームのコーチになったのか」。
 アテネ五輪(04)後、日本チームを退任し、中国のナショナルコーチになった井村さんには、国賊、売国奴といった中傷が浴びせられた。これらの批判に今まで沈黙してきたのは、「人生、荒波が過ぎるのを待つ時期もある」から。井村さんの真意は本書に詳しいが、中国コーチになった最大の理由は、「日本のシンクロをアジアに定着させ、世界のスタンダードにするため」だったという。
「シンクロは、審判の主観や習慣が勝敗を左右する競技です。現在の審判方法は完全に西欧流儀。その視点をアジアへと転換させない限り、日本は“金”を取れないんです」
 偏狭なナショナリストに聞かせたい台詞ではないか。

 それにしても、84年のロサンゼルス五輪以来、8回連続でメダルを獲得しているのだから物凄い。
 そんな井村さんは、試合直前の選手にどんな話をしているのだろう?
「ああいう時に、いろいろなことを言うのはダメな指導者。私は、点に反映されることを、ひと言だけ言います」

 最後に井村さんは、「私は日本人。日本のためにもう一度やれと言われたらやると思う」と言い残して、今度は英国チームを教えるために旅立って行った。
 行かないで、井村さ〜ん、早く日本に戻って「金」をお願いします!

posted by 柳田由紀子 at 15:18| Comment(0) | 過去の雑誌記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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